なんでも自分が好きなことをやれ 北海道新得町の共働学舎新得農場にイチカワが初めて来たのは、二〇〇一年の秋だった。サリドマイド被害者を支援する会から、その前に打診があった。 「彼はいろいろ問題があって、働きはじめても三か月ともたないんですよ。これまで十か所以上で仕事をしたんですが、うまくいかずにまた東京へ戻ってきてしまうんです」 「いいですよ。三か月もたないなんて、うちでは珍しくありませんから」 いつものように僕は答えた。 共働学舎には、心身に障害をもつ者や家族のない者、うつ、ひきこもり、登校拒否など、この社会にうまくなじめないさまざまな人間が集まり、ともに暮らし働いている。新得農場設立から三十年、薬害で手足の短い赤ん坊として生まれたサリドマイド被害者を受け入れるのは初めてだった。 イチカワは当時四十歳。両腕がまったくなかったが、がっちりとした体つきで、なかなか不敵な面構えをしていた。当初は気を張り詰めながら周りを威嚇するように存在していた。 話をするうちに彼は頭がよくて努力家であることがわかった。筑波大学を卒業し、車の免許を持っていた。パソコンもやった。ところが、就職となると、パソコン操作にしても足でやるぶん、効率が悪い。自分のペースで仕事ができず、もともとけんかっ早い彼は、すぐに同僚や上司とけんかして辞めてしまう。そういうことが繰り返されたようだ。 「ここで何をしたらいいですか?」と彼はきいた。そのたびに僕は「なんでも自分が好きなことをやれ」と答えた。チーズづくり、牛の世話、野菜づくり、工芸品づくり、販売所…。ここではやるべき仕事はたくさんある。時間がかかっても、自分のしたいこと、自分に合うことを見つければ、これまで知らなかったみずからの可能性に出会えるかもしれない。最初は戸惑っていたようだが、彼は次第に自分の生活パターンを見つけていった。 まず朝四時に起きて牛舎の掃除をする。通路の牛糞を集める作業だ。牛舎から牛を追い出して、雪をすくうスクレイパーの柄を足と体を使ってあごの下にぐっとはさみ、おなかでそれを押していく。そうやって通路にある牛糞を一か所に集める。ゆっくり、でも丁寧にやる。一か所に集めておくと、あとでタイヤショベルという運搬機械がまとめてすくいあげ、いっぺんに運び出せる。仕事の効率が格段に良くなるわけだ。 彼はみんなが起きてくる前の時間帯にそれをやる。それには理由がある。両腕のない彼は、体のバランスを保つことが難しく、機械のそばで仕事をすると危ない。それだけ彼も機械のオペレーターも気をつかう。そのことを彼自身よくわかっていて、餌やりが来る五時半ごろには、自分の仕事を終わるようにしている。みんなが出てくるころには、彼は食堂に行き、みんながコーヒーを飲めるよう準備する。 昼間は、織物や工芸をする。羊から刈り取った原毛を、針のたくさんついたカーダーという道具を使い、足でぐっと伸ばしていってそろえる。その毛からフェルトボールをつくったり、糸を紡いで織機で織ったりする。それを足だけで、それもかなりのスピードでやる。