277〜278頁 「訳者あとがき」より 「自分の理解できないものを好きな人間などどこにもおらん」 ジョアン・プライスの書いた『輝く星』という小説には、深く印象に残る言葉が、夜空の星のようにいくつもちりばめられている。とりわけわたしにとって忘れられない言葉は、ここに引用したメディスンマンの老人の言葉である。世界が憎しみと暴力にあふれているとき、いちばんたりないものが「理解」であるからだ。相手の存在にたいする理解、文化にたいする理解、生き方にたいする理解。そうしたものの欠如がひとびとを導く先は、想像するにおぞましい世界である。 小説『輝く星』は、プエブロと呼ばれる北米大陸南西部の沙漠に暮らす農耕の民の世界と物理的精神的に深くかかわりを持つひとりのアメリカ人女性によって書かれた。彼女はアリゾナに生まれ、その赤い大地を愛して育ち、その土地で生きる人たちの精神を理解している。われわれはこの本をつうじて、次の世代に、暴力に頼ることなく、世界を愛し、受けいれるための伝統的な知恵を学ぶことができるだろう。 極端に水の少ない土地であるために「砂漠」ではなく「沙漠」と記されるコロラド高原はいまでも「インディアン・カントリー」と呼ばれている美しい土地である。一度でもその中を旅した者は、生涯その風景を忘れることはない。この小説の主人公であるロマは、そうした風景のなかで育つホピの少年である。 |