本文63〜64頁より 深い底なしの闇が磨く月は、眩しくて見られないほどの輝きを持つ。そんな時、森は踊るようだ。青白さが雪山を包んで、静けさの中に月の動く音が聞こえそう……。 そのような晩に、子どもたちがかんじきをつけて、雪を掘りながら屋根に登る。子どもの背丈よりも高い雪を月明かりに進む。かんじきで踏み固めた上にむしろを敷き、屋根の月見の宴だ。下で見る月と屋根の上で見る月はまた違う。 「いま聞こえる音は?」 すべての音が雪に沈んでいる。子どもが答える。 「うさぎがとぶ音」 「雲が月にあたる音」 何か足りないものがある。子どもが下へおりてルバーブを持ってくる。アフガニスタンの砂漠に生まれた古代の楽器だ。月光のじゅうたんに乗って、僕たちは旅をしている。 「ルバーブの音はどこへ行くか?」 「月を見ている生きものたちの耳に」 音が森をすべる、すべる。 月は不思議な書物で、読んでいるといろいろなことがわかる。部屋の中に置いてひとりで見るものではない。勝手に宇宙の家にやってくる月は、地上、中空、天空とすべてのものを見、またすべてのものに見られている。月を見ることは、だから宇宙の部屋にいる自分を知ることだ。 月は宇宙のろうそく。 心のたき火。 詩人たちの夢枕。 月を友とすることは、宇宙に生きること。 |